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25/04/10

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第33回】「男の子の育て方、女の子の育て方…」

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 30年ほど前、愛媛県松山にあるS塾へよくお邪魔した。その塾は小中を自塾授業で高校大学受験はそのころ始まった「東進衛星予備校」でやっていた。そこの塾は先生たちも個性派揃いで面白かったが、実は個性派の保護者がたくさん来ていたことが更なる魅力であった。自身の子供は嫌がっていたかもしれないが、個性派保護者達は他所の子や塾の若い先生を相手に人生論を「ぶつ」のが好きだった。「ぶつ」とは威勢よく話すことである。
 人生論をぶつのは男性が多かったが、少数ながら母親保護者にも「ぶつ」ひとがいた。正直に打ち明けると、男性版は大体盛りに盛った武勇伝が中心で二、三人も聞くとすぐに飽きてくる。しかし、女性の人生論は一人ひとり個性的で、余り盛ったところがなくて真実味があって聞き応えがあった。
 あれは夏の暑い日であった。松山中心部の塾校舎の受付付近で若手の先生たち(筆者もその当時は若手であった)と談笑していると、入り口から子供を迎えに来たと思しき母親が入ってきた。存在感のある方であった。母として、女性として、人間としてすべての存在感を漂わせた女性であった。私の方を見て、「あら、あなた新人の先生なの?」と物怖じすることなく聞いてきた。さりげなく「隣県から研修に来ています」とかわした。
 女性は近くのカウンター席を一瞥すると「座らせてもらっていいかしら」と言って腰を下ろした。(ここからの女性のセリフは伊予弁であるが、都合阿波弁で代用させていただく)「毎日、生徒相手の仕事も大変やな。ところで先生方、男の子と女の子の育て方の違いって知っとるで、これ間違うたらあかんでよ」
 第一段落でも述べたように30年前の話である。旧いかもしれないが、現在の育て方と対比して読み進んでもらえると嬉しい。女性は続ける。「女の子は大事にして、ええべべ(よい衣服)着せて、生け花やお琴や踊りを習わせて、まあ言うと外側から整えていくとええ娘に育つ。男の子は外側から行くとあかんでよ。とんでもないぼんくらに育つ。男はな、中身からたたき上げて育てるんじゃ。鍛冶場で真っ赤に熱した鋼を打って鍛えるように育てなあかん。上手に芯から育てた男の子は優しいて強い子になるでよ」
 S塾の先生たちは「ははあ…」畏まって固まっていたので、外者の筆者が勇気を出して「女の子は鍛えられないのですか?」と尋ねた。女性はキッとこちらを見ると「無理ではないが難しい。やりすぎるととんでもなく根性悪になる」。そして、「ニコッ」とほほ笑んで「女は鍛えんでも元から強い」と締めくくった。
 ここから場面は現代に戻る。今の男の子、今の女の子はどう育てるのがよいだろうか?30年前の松山の話が全く通用しないとはいえないが、今は「LGBTQ」の時代である。ここから考えようとすると頭がクラクラしてきた。正直に言うと思考の第一歩が踏み出せない。 (終)

2024年8月29日 発行

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