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25/11/11

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第61回】「英語なんて喋れて当然の時代なのに…」

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車窓余禄タイトル

 ある夏の暑い日のことである。場所は東京山手線の有楽町駅である。獣医師の卵(獣医学部生)四人と普通の大学卒業生一人が遊びに行く途中であった。そこへ突然現れたのが年配の外国人夫婦である。聞きたいことがあるようである。目的地までの乗り換えが分からず途方に暮れているようであった。
 そこで、さっと一歩下がったのは四人の獣医学部生であり、一歩前に出たのは普通の大学卒業生であった。不安そうに目的地までの路線を聞く外国人夫妻を安心させる堂々とした態度で、そして歯切れのよい英語で親切に説明した。老夫婦もだんだん表情が柔和になってきた。最後に、明るい声で「サンキュー」と礼を述べて、手を振りながら乗り換えのホームへ降りて行った。一言も英語を使うことのなかった四人はあっけに取られていた。「すごい、英語ぺらぺらや」と同時に感嘆の声を上げた。その日は、皆から一目を置かれた「株価上昇の日」であった。
 テーマは英語会話のまま変わらないが、場面はガラリと変えたい。自民党本部ビルである。時は2025年9月末頃である。翌月4日に投開票が行われる自民党総裁選候補者五人に、有名ユーチューバーのひろゆき氏が質問を投げかける進行役を依頼された。依頼したのは自民党本部である。そして、本部自ら配信もした。様々な政治問題・課題を聞いて進行したが、参加者が少し面食らう問いかけがなされた。ひろゆき氏は英語で質問を発した。What kind of country do you want Japan to be? Please explain it in English, in one minute.(あなたは、日本がどんな国であってほしいですか。英語で、一分で説明をお願いします)
 英語での回答を求められた五人はどう出るのか、面白い展開になったと前のめりに画面を見た。トップバッターは林官房長官である。「平和で希望のある日本にしたい。特に若者が自分の歩みを決められる国でありたい」と米国留学経験者らしく安定した余裕ある回答であった。次の高市、小泉、小林は英語での回答を避けてしまった。後ろめたさがあるせいか、日本語での回答もどうも冴えがない。ラストの茂木幹事長はより政治課題の核心に迫る内容を英語でまとめ上げた。「世界の覇権国アメリカとの外交、挑戦者の中国との外交に日本の重要性を説きたい」と、ど真ん中に球を投げた。日本語の時より分かりやすく誠実さがにじみ出ている。
 まず、私の感想である。予備校らしく合否を出したい。林、茂木、これら二人の年配者は合格である。ひろゆき進行役の求めに素直に応じた対応は、彼らの実力や誠実さが伺えてとても好感がもてる。反対に若手二名と女性候補には期待していただけに余計に落胆した。英語がうまくなくても、誠実にコツコツと英語を繰り出して欲しかった。特に、政治家や経営者は、思いがけない局面での当意即妙や臨機応変が求められる職業である。あれで総理大臣が務まるのかと、心配になってきた。さらに不満なのは、進行役のひろゆき氏の意向を無視したかのような対応は失礼でもある。場の雰囲気にもよくない。
 忙しいが、場面はまた切り替わる。時は総裁選と同じ9月下旬、場所は米国ニューヨークのマンハッタンにある国連本部である。国連総会が催され、世界各国の首脳たちが演説をしている。それぞれの国の問題・課題・方針が聞けるので、仕事が終わって帰宅すると首脳たちの演説を聞いている。とても為になる。当然、トランプ大統領の演説は一番に聞いた。迫力と説得力が半端ない。また、小さな国、発展途上の国のリーダーたちも大国のリーダーに決して負けてはいない。むしろ、凌駕している場合もある。
 さて、本部ビルの外に出てみよう。夕刻の暗闇である。フランスのマクロン大統領一行がホテルに帰るべく駐車場に向かおうとしている。しかし、トランプ大統領の車列待ちのため進路が警官に遮断されている。警官に通してくれと談判しているが、答えは「ノー」である。イライラした大統領は携帯電話を取り出して、トランプ大統領に善処をもとめようとしている。驚いたことは二つある。マンハッタンで大国同士の首脳が携帯で会話してもいいのか。もう一つは打ち解けた親し気な言葉使いである。マクロンがコールすると以外にもすぐに相手(トランプ)は出た。マクロンの第一声が驚いた、「ハロー、わたし誰だか分かるかな…」なんと、世界の大国の首脳同士はこんなに打ち解けて親しいのか。
 でも、この親しさの輪の仲に我が国の首脳は入っているのだろうか。多分、入っていないだろうなと思うと、寂しさと頼りなさが込み上げてきた。 (終)

2025年10月9日 発行

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