
前号では、奇しくも筆者がTEC予備校の創成期に英語指導に使って成功を収めた方法が灘中高校伝説の国語教師のやり方と似ていることの発見について触れた。文法でも長文でも、「教えられなくても習える」指導法で生徒成績向上や大学入試の成功を果たして、予備校の基礎作りをした話である。
この指導法を現代のITやAI技術も使い再び復刻させることとなった。そこで、灘中高校伝説国語教師の橋本武先生の人物や授業展開についてじっくり研究してみた。先生が中学3年間を通して生徒たち(一クラス50名×4組)の教材として使った小説「銀の匙」も手に入れ読んでみた。作者は中勘助(1885~1965)、夏目漱石の弟子のひとりである。少年時代、伯母さんの愛情に包まれて育った明治の東京で見たこと経験したことを自伝風小説に綴っている。情景や心の描写が新鮮で本物感に溢れていて引き込まれる小説である。灘の橋本先生が心酔したのも分かるような気がする。本物に接するのはいいなと思う。
橋本先生は小説に明治のお菓子が登場すると、全国のお菓子屋を調べて同じものや近いものを調達して生徒に食べさせていた。明治の凧揚げの情景になると、実際に生徒たちに凧を一から作らせて、頃合いの風の日に凧揚げを行った。読んで、設問を解いて終わる授業の真逆をやっていた。小説で使われている言葉の真の意味合いがいくら話し合っても分からないときには作者に手紙を書いて尋ねたり、実際の生徒五人ほどを連れて東京の作者宅を訪問したりした。うーん、面白そうだ。
実は、筆者も似たようなことをやっていた。日本を訪問した英国人が猛暑の折、街の食堂で食べたかき氷に感動したとの英文に出くわして、それが真夏であれば、クラス全員にかき氷をサプライズ提供して大うけであった。このサプライズは今でもTEC予備校の真夏の恒例行事となっている。さらに、紅茶に関する英文と出会うと、クラス全員に紅茶の歴史や美味しい淹れ方解説英文を教えて、その後、実際に紅茶をいれて皆で飲む機会を楽しんだ。ファッションの英文が出ると、その後日時を決めて、自分の好きなファッションを纏って登校する日を楽しんだ。すると、割と日ごろ大人し目の男子生徒が黒革ジャンに棘のスタッドで現れ皆を驚かせ盛り上げたこともいい思い出である。
これらの経験で気づいたことは、ベストの教育とは「遊び心である」との本質であった。教育と遊びの融合をTEC予備校でやってみたい。為せば成る、できないことはない。鋭意開発に着手している。乞うご期待。 (終)
2024年10月10日 発行