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21/07/16

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第2回】「車の旅、人生の旅、遍路の旅 どこかで交差する」

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車窓余禄タイトル

 TEC予備校の指導は生徒の進路選択から始めている。もっと分かりやすくリア ルにするため「人生選択」という同義語も使う。人生の出発点は誕生である。乳児・幼児時代は運転を親にほぼ全て任せる他ない。でも、子も親も早い自立を目指す。
 しかし、大きくなるに従い自分の人生を自分の意志で操る範囲が増えてくる。車の運転同様、しばらくは道なりに進む時期もあるが、要所々々には方向を自分で選ばねばならない岐路(分かれ道、入試など)に行き当たる。考える、迷う、悩む時であるが決めないことには前進できない。また選んでから、しばらく進むと道を間違ったことに気づくこともある。車はUターンして後戻りが容易にできる。しかし人生道はこの後戻りが難しいか不可能な場合が多い。だから怖い。
 仕事や遊び、さらには経済団体で20代から30代の若者によく出会う。私はさりげなく「今の人生、満足していますか」と尋ねてみる。日本人は「うーん、そうですねぇ」と一瞬考え込む人が多い。欧米人はハッと我に返り、一瞬間を置くが「もちろん、満足しています。それは………だからです」と力を込めた返答が戻ってくる。迷いを隠すような素振りや、自分に満足しているのだと言い聞かせるトーンも感じられる。日本人の応答は内容の良し悪しにかかわらずどこか素直に聞こえる。韓国人や中国人の場合は回答までの間合いに気のせいか葛藤の瞬間が見える。やはり競争の厳しい国情を反映しているのかなと思う。様々である
 ここでちょっとリアルな外国人から聞かされた重い人生エピソードを示したい。四国の道を車で走っていると道端にお遍路さんをよく見かける。日本人だけでなく外国人の巡礼も少なくない。今はとても自身反省しているが、外国人の遍路行脚を甘く軽く見ていた。つまり、形だけ真似てその気になっているだけと思い込んでいた。長いことそう思っていた。浅い自分であった。
徳島の南には県境の高知側に甲浦という漁港の町がある。ツーリング最中の休憩時に豪州から来た一人遍路の40歳前後と思しき柔和な男性から話しかけられた。ニコニコしながら近づいてきた。「ニホンゴ、トテモ、ウマクナイデス。エイゴ、ユルシテクダサイ」。英語でどうぞと応えると、ほっとした様子で話し始めた。核心だけを伝えると、「日本人は重い重い心の荷物を降ろすために遍路を始めことを知り、自分もつぶされそうになる重荷を下ろすために巡礼の旅を始めました。そうしないと自分の人生を破壊してしまうか、人を殺してしまいそうになったのです」とポツポツと語り始めた。詳細はショッキングなので割愛するが、たいそうな重荷である。異論なく重荷である。愛の裏切りと経済的罠が同時に彼を襲ったと説明しておこう。
 それ以来、外国人の遍路姿を見かけると「頑張ってください。早く心の重荷がなくなるといいですね」と心の中で応援するようになった。そして、そのたびにあの時までの自らの浅はかさを恥じて反省している。そして、人生の大切さを感じる。
 だから、TEC予備校でお世話している生徒たちには「誠実に勇気をもって人生と向き合えるようになってほしいと願っている」。人生はいいこともあるが、危険がいっぱいでもある。だからこそ、入念な準備をして人生という車を運転してくださいと願っている。
 しっかり人生設計して人生道を歩むと、仮にやり直すことになっても賢明な判断ができると信じる。さらには、とてつもない重荷を背負う羽目になっても、自分の破滅や周りにおおきな迷惑被害をかけることを回避しながら解決する確率が高まる。
 最近は好きなドライビングをしていても人生を運転している意識が強まり、他人にも車も人生も危険を避けて楽しんでほしいと強く願うようになった。甲浦のオーストラリア人に感謝している。(終)

2021年1月20日 発行  TEC TIMES 2月号より

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