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21/07/16

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第5回】「脱炭素化をうまく乗り切らないと日本が危ない」

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 オリンピックの聖火リレーを観に行った。リレーそれ自体よりも前後を固めるスポンサー役の民間企業のお祭り車と警備車両の長さに圧倒された。警察車両の中にお馴染みの白黒パンダ柄に交じって青白のモダンなのが一台交じっていた。車両の横に大きな英語のポリス表示がなければ警察とは分からない。車種は二酸化炭素を出さないトヨタの燃料電池車ミライであった。この車両は後日、普通の日にも路上で出会った。正式配備車両であろう。警官は(気のせいか)いつもより嬉しそうに運転していた。
 昨年末に政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表した。世界各国が(欧米中心ではあるが他国も)急速に進める脱炭素化の流れに乗ったものである。これが実現されると自動車を始め様々な製品は部品段階から完成どころか流通まで合わせてCO2ゼロで作り販売することが求められる。ゼロにできない分野の排出分は空気中のCO2を減少させる技術で乗り切るらしい。
 ということで、聖火リレーのCO2ゼロの警察車両は先の発表の宣伝のためである。気候変動防止にはCO2を始めとする温暖化ガスの減少が必須であるとの意見には私も賛同している。米国も先のトランプ時代は公然と無視していたがバイデン新大統領は温暖化ガス減少・削減の路線に戻ってきた。いいことである。
 温暖化ガス減少・削減それ自体はいいことであり、地球にとって必要なことである。私自身も賛成であり、その目的のために行動したい。しかし、あらゆる変化には好ましい結果と合わせて不都合な影響も生じる。つまり、日本は主要エネルギーの電力をとってもまだ75%は化石燃料で作っている。自動車製造でも原材料の鉄やアルミからCO2ゼロで作り始めねばならない。最終組み立てのトヨタ本体の工場なら何とかなるかもしれない。しかし、製鉄所は火と熱の塊であるが、ここからCO2ゼロを実現するのは並大抵ではない。石炭は止めてオール電気でやりますと言っても、その電気がCO2ゼロで作った代物でないとグリーンな製品とは認めてもらえない。つまり、世界で買ってもらえない、売れないのである。また、自動車部品は大小の下請け工場で大半が作られている。ここで使う電気を始めとするエネルギーまでCO2ゼロを徹底できるであろうか。
 欧米の国々はCO2ゼロを地球の必要であると同時に他国よりも優位に立つ国家戦略ととらえている。あらゆる変化をチャンスと捉える習慣と伝統を持ち合わせている。永世中立国として名高いスイスなどは、かつては他国の戦争に優秀な兵士を送り込んで儲けていたが、今は大きな兵器輸出国である。彼らは「流行りそうな正義」をいち早く作り、国連等を通して世界に売り込む。正義の実現に向けたルールや手順も自分たちが作る。違反した時の罰則もちゃんと用意してある。ルールや手順は自分たちに都合よく仕立てる。罰則は他人が受けるようになっている。したたかな連中である。日本製の品物は世界中からCO2ゼロ違反で輸入禁止処分を受ける悪夢が現実化しそうで怖い。
 しかし、隣国の中国は強かに欧米に対峙している。強みは世界の工場として稼いだ金とどんなことでも鶴の一声で決めて実行できる独裁政治である。自動車会社ウーリンは昨年7月に46万円の電気自動車を発売して、今や月間4万台の売り上げである。また、中国の製鉄業界は水素燃料で動く高炉を開発中とのことである。あの火と熱の塊の製鉄所が石炭なし、CO2ゼロで稼働するのである。とにかく、中国は有り余るカネと独裁政治でやることが恐ろしく速い。これには狡猾な欧米陣も圧倒されている。
 狡猾な欧米と独裁の中国の間に沈む国がある。それが日本であると思えて不安でならない。私たちはCO2ゼロという地球規模の正義であり念入りに仕組まれた大変革に立ち向かって生き残らねばならない。狡猾でも負け、独裁にも負けては我が国に未来はない。
 コロナ禍にあたふたしている今の日本の指導者にこの荒波を乗り切る力が隠されているのだろうか?(終)

2021年4月20日 発行  TEC TIMES 5月号より

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