MENU
21/09/19

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第10回】「世界中の車が似てきた。他のものも同様に!」

ページメニュー

アーカイブ

車窓余禄タイトル

 コロナ禍になってから、県外出張は大幅に減った。たいてい電話、メール、ズームでのオンライン会議で済ませる。しかし、現地に行かないとできない事案も発生する。そんなわけで、他の役員と二人で九州の事業所へ向かった。松茂から福岡行きのエンブラエル機に乗り込んだ。車も好きだが、飛行機も大好きなので待合室から駐機している機体をしげしげと眺めるのが楽しい。
 ボーディングブリッジを抜けて機内に乗り込むときはいつも軽い興奮を覚える。先程、車が好きだ、飛行機も好きだ、といったが女性も好きだと言っては軽い不適切発言になってしまうが、とにかく着席するとキャビンアテンダントに目が行く。共に女性で(海外のエアラインでは随分前から男性も少なくない…)2名いる。背格好も似ていてマスク着用なので目元から上しか見えない。仕事中なので髪は後ろで束ねている。瓜二つの顔で区別がつかない。最近の日本の若い女性の標準メイクである。綺麗な女性を観るのは好きだが、どこもかしこも同じ顔を見るのはいやだ。
 女性だけでなく車も区別がつきにくくなった。福岡空港から高速に乗りサービスエリアに自車を停めると、隣にドイツアウディ社のSUVQ5がいた。その一つ向こうにトヨタ社のハリアーが並んでいる。色は仲良く黒である。同行者に声を掛けた。「この二台前後から見ると違うだろ、では真横からみたらどうかな?」彼はしばらく二車を前のボンネットから、前面ガラス、ルーフの流れ、そして後面ガラスへと真横からのシルエットに目を走らせていた。目を丸くして振り向いた。「サイズもラインの形も全く一緒やねぇ! 同じところで作って、車名だけ変えてるのかなぁ……」いや、そんなことはないと私は答えた。
 空力(空気力学)は普遍的なサイエンスなので高速での安定性を求めると同じ形に行きつく。もう一つの理由は衝突安全性だ。ぶつかっても前部が素直にグシャと壊れてショックを吸収する。キャビンは壊さない、変形さえさせない。これが今の自動車技術である。金属の変形を扱う工学も法律も共に普遍性は高い。だから、ドイツで作っても日本で作っても同じ結果に行きつく。似るはずだ。
 出張は二時間ほど運転して長崎のホテルに着いた。品よく明るくホテルの女性スタッフが迎えてくれた。「機中で見たキャビンアテンダントが先回りしてホテルで働いているのか」と思った。翌朝、仕事に向かう前にホテルの朝食会場に下りて行った。ビュッフェ形式の朝食会場にまた同じ顔、顔がいる。最近は地方へ行っても言葉は標準化されている。仕事もよく研修されているので接客もそつない。顔が同じ、喋り方も同じ、所作も同じ。なにか寂しさというか個性のなさに人と接する味わいが感じられない。
 私は標準化のメリットも認めるが、個性の埋没はとても悲しい。そもそも自分は人や物事を縦に上下で見るのがあまり好きでなく、横に左右で個性を観るのが好きな性質である。
 この世のコモディティ化現象を何とかしたいと真面目に悩んでいる。違いのない、個性のない世界なんて死ぬほどつまらない。 (終)

2021年9月18日 発行  TEC TIMES 10月号より

TEC予備校へのお問い合わせ

お電話にて

メールフォームへ(24時間受け付けております)

お問い合わせ 時間割や料金がわかる資料を無料でお送りします。