MENU
21/08/20

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第9回】「アイドリングストップはしない」

ページメニュー

アーカイブ

車窓余禄タイトル

 信号が変わるとエンジン再起動の音が連鎖的に響き渡る。(私には)いやな音である。金属同士を無理やり嚙み合わせる音である。ガシャーンとガツーンの中間音とでも表現しようか、機械に悪い影響のありそうな悪音である。燃費とCO2発生低減には効果があるのは認める。機械装置や電気系統には決して好ましくない機能である。
 だから、私はアイドリングストップ機能は常にOFFにしている。他人の車でも発進前に「これOFFにしていいですか?」と許可をもらい切っている。あの大きくて重いエンジンを回し始めるにはバッテリーやモーターには短時間にせよ大きな電力(電流×電圧)を要している。この機能が登場してからバッテリーの持ちはとても短くなった。それほど酷使されている証拠である。
 さらに、機械的にもよくない。信号で車両自体は止まっていても内燃機関は緩やかに回しておきたい。機関内部に潤滑の温かい油が循環し続けさせたい。多くのこすれ合う部分は次の発進に備えて温めて潤滑させておきたい。エンジン内部には洞窟の迷路のような冷却水の通路が張り巡らされている。内部温度が上がり過ぎないように常時冷却をしているのだ。人体の心肺機能が寝ていても働いているように、エンジンも緩やかに回し続けたい。
 燃費にはよいかもしれないが、電気にも機械系統には好ましくない。車を単なる機械、移動手段と考える人は無頓着でいられるが、愛馬のように慈しむ車好きには耐えられない仕打ちである。感覚的、感情的なだけでなく、専門知識として「環境へのやさしさ」と引き換えに車体寿命を削っている事実を知る身には堪らない。
 無論、環境対策は止められない。この原稿を書いている現在も外は土砂降りの雨である。地球温暖化のツケが大きく牙を剥いている。日本だけでない。時を同じくして欧州のドイツ、フランスを始めとする各国で甚大な洪水被害が止まらない。隣の中国でも巨大な三峡ダムの決壊が懸念される大雨が続いている。だから、アイドリングストップが必要だ。だから、CO2削減だ。カーボンニュートラルだ。矢次早に出てくる。
 このように、世界の価値観の流行は大洪水の勢いにも劣らない。ガソリン車は罪だ、電気車に速く切り替えろ。天然ガス、石油、石炭を燃やす火力発電への投資を禁止する。化石燃料を熱源にする製鉄所は終わりだ、早く水素熱源の製鉄所を開発せよ(中国ではすでに始めている)。流行り物はとにかく忙しない。そして大波のようなエネルギーをもつ。世界の人口の半分にもなるガソリン車、軽油を使うディーゼル車を一気に廃棄するとなると巨大な損失であると同時に、処分に伴う環境負荷はいかほどのものか。
 なにもかも一気に変えるのもやり方だが、今あるものを改善して生かす方法はないのか。ほんの2か月前、静岡県にある富士スピードウェイではトヨタカローラスポーツが水素を燃やして24時間耐久レースを走りぬいた。ガソリンに替わって水素を供給する部位に手を加えただけで、ほとんどガソリン車と同じ車体であった。
 一気にすべてを変えるだけが解決ではない。知恵の出しようで解決方法は無限だ。政治やマスコミの煽りで日本や世界は動きすぎる。自動車、エネルギーに関しては開発している技術者に自己主張が足りない。専門家として独自の解決策を世間に示す責任がある。政治家やマスコミ、そして考えない素人に振り回されてどうする。 (終)

2021年8月20日 発行  TEC TIMES 9月号より

TEC予備校へのお問い合わせ

お電話にて

メールフォームへ(24時間受け付けております)

お問い合わせ 時間割や料金がわかる資料を無料でお送りします。