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23/04/22

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第24回】「校長、友人が出走するラリー応援に行く」

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 クルマの競技は大きく分けて、二つある。閉鎖周回路を走る「レース」と一般公道を閉鎖して走る「ラリー」である。今回は観戦と応援を兼ねてラリーに行った。場所は三好市三野町にある広大な河川敷を整備して作った「三野健康防災公園」がセレモニアルスタート地点となった。3月26日当日は晴天を願っていたが、実際は真逆の雨降りとなった。
 このラリーの正式名称は「トヨタ・ガズー・レーシング・ラリーチャレンジ イン三好」であった。名の通り世界のカーメーカー・トヨタが全面バックアップして催すラリーである。私たち応援団3人組はラリーに関することなら何でも見てやろうと興味津々なので、防災公園から少し離れた山手にある三野町体育館で行う開会式から参加した。ラリーは地域の舗装路(ターマックという)や舗装してない路(グラベル)を閉鎖して開催するので地元の行政や自動車産業界の協力が欠かせない。だから、式典冒頭では小柄ながら美人(と、私は思う)である三好市長の高井美穂さんが歓迎の挨拶をした。長い大会の正式名称を唱えるのに少し噛んでしまったが、他はそつなく女性政治家らしくスピーチを終えた。
 市長に続いて挨拶に登壇したのはもうじきトヨタの新社長に就任する佐藤恒治(さとう・こうじ)さんであった。この人は登壇前から会場内を軽いフットワークで歩き回り、気軽に周りに声をかけたり、かけられたりしていた。世界のトヨタを率いる重々しさや威厳などは皆無の人物であった。気安く親しみやすい人というより、英語でfrank and friendly な人と言った方がぴったりなキャラである。世界のカーメーカーの社長は経営管理畑出身の文系人が多いが、この人は珍しく技術者である。挨拶の内容、口調も見ての通りフランク&フレンドリーである。私は「いい人がトヨタの社長になった」とスピーチを聞きながら微笑んだ。
 すると、「こんにちはー」と声をかけられた。今度は長身の美人である。「来ていると思いましたよ。Kさんの応援でしょ」と声が弾む。背後の控えめなご主人が会釈をしている。車好きな若夫婦である。さっと、バッグからスマホを取り出して見せる。「今度トヨタの社長になる佐藤さんとのショットよ…」と見せると、若夫婦が左右からトヨタの頂点をバチッと挟んでいる。若い人は自由だなぁ…。 ところで、当日は果たさねばならないミッション(任務)が一つあった。ドライバーのKさんから、セレモニアルスタートのゲート右手に陣取って「ハイタッチ」をせよと事前指令があったからだ。3人のうちクールな人物は「…そこまでしなくても…」と言って自分好みの観戦地点へ向かった。私ともう一人は人情に多少はこだわる方なので、悪天候の中、ゲート目指して堤防の法面を滑らないように下った。10メートル手前まで行ったが運営関係者以外は立ち入れない雰囲気であった。ハイタッチは諦めて手を振ってスマイルすることにした。
 タイムが計測されるコースをSS(special stage)という。本日は河川敷に造成されたクネクネのグラベル(要するにぬかるみ)と高低差100Mのターマック峠道、そして高低差150Mの峠道を2回ずつ走る合計6ステージである。競技車が出走する前にコースを全開走行して点検するゼロカーがスタートした。カラフルな色で仕上げたほぼ新車のトヨタヤリスである。あの泥道の第1SSを、書道の名人の筆遣いを思わせるタッチで見事に走り抜けた。観戦している人々から感嘆の声が上がった。計測タイムがアナウンスされた。23秒であった。のち45台が出走したが、誰一人ゼロカーのタイムには遥か及ばなかった。最速が27.6秒で、次が友人のKさんの29.1秒であった。
 天候の関係で峠道は会場での映像モニターを見ることになった。本当は、この目で峠道での凄い走りを観たかった。峠のラリーを観戦できなかった鬱憤をはらすべく、自宅に帰ってからはYouTubeでラリーを観まくった。そのうちに、「もう少し若ければ、出場するのに…」と今度は悔しさが込み上げてきた。
 翌朝、Kさんからライントークが届いた。リザルトを見ると、クラス一位優勝、45台全車中12位であった。じわっと、嬉しさが込み上げてきた。 (終)

2023年4月20日 発行  TEC TIMES 2023年5月号より

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