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25/06/25

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第53回】「梅雨時期のドライビング…」

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 雨の日も積極的に車を走らせている。雨降りのドライビングが好きなわけではない。一般の人々と同じく、雨の中の運転は気を遣うし、危険が伴う。それでも敢えて雨の中、濡れた道に繰り出すには理由がある。晴れの日和より圧倒的に悪条件の中でのドライビングを試しているのだ。劣悪な状況での運転は次の三つのことをさらけ出してくれる。ひとつはクルマの性能と現状である。二つ目はドライバーの腕とその日の体調(体と心)である。そして、三つ目は晴れの日には分からない道路の秘めた危険性である。
 今回は特に三つ目の道路について語ってみたい。分かりやすくするため、具体的事例から入りたい。私が阿南に行く時よく利用するのが南部中学校から丈六寺に抜ける県道112号線である。勝浦川沿いに南下する道である。多くの交通は川の対岸を走る県道16号線を利用する。左手に河川敷の畑を見ながら走る堤防道最後にあるほんの100メートルくらいの道路舗装が曲者である。早い話が、雨の日はよく滑る。しかも、予期せずして突然すべる。人間に例えると、理解不能と言う他ないほど突然に不機嫌になる会話相手である。話しにくい、付き合いにくい癖の強い相手といえる。
 話は道に戻る。そのややこしい道路は舗装が謎である。その100メートルだけ色彩が黒いのである。晴れの日でもタイヤが路面を掴みかねているのか、不思議な摩擦音が発生する。今年の梅雨は6月8日に入るや否や本降りになった。その朝は雨の中阿南の友人宅へ向かっていた。車は現行型マツダロードスターNDである。例の個所に差し掛かると、高速でも、急ハンドルでも、急ブレーキでもないのに唐突に車が蛇行を始めた。「危ない…」と思い、軽くブレーキをかけて車体を路面に押し付けた。パニックブレーキなどかけていたら、堤防下に激しく転落していたかもしれない。とにかく、ヒヤッとした。県の道路事務所に報告しようと思う。誰にも危ない道路である。早く直した方がよい。
 その危険個所を抜けて定常運転に戻ると反省をしてみた。公平にみて、ドライバーの運転に無理はなかった。精神も安定の域にある。では、車輛はどうであろうか? タイヤはブリジストン・アドバンネオバである。タイヤ溝は半分残っている。まだ新しいので経年硬化は起こしていない。指で押しても弾力性がある。言うまでもなく、タイヤの偏摩耗は一切ない。冷静に判断して、蛇行の原因は道路舗装である。
 ちなみに、新車を購入したディーラーに定期点検や車検に持ち込むとしよう。そこのエンジニアはまず何をみるだろうか? 車内でもエンジンルームでもない。一番に気にしてみるのはタイヤである。タイヤは多くを語る。いや、すべてを語ると言っても過言ではない。まず、ユーザーの車の乗り方が分かる。人物の性格が分かる。運転技量が分かる。常時の運転スピードが分かる。極論すれば、車が「幸せか否か」を語っている。客商売ゆえ、客が不機嫌になることは言わない。けど、運転のされ方を把握したうえで車輛点検作業に入る。プロの基本手順である。
 ところで、判定の悪いタイヤとはどんなタイヤであろうか。それは偏摩耗したタイヤである。内側と外側でタイヤの減りに偏りがあるタイヤである。また、指定空気圧から外れたタイヤである。空気圧が高すぎると中央ばかりが減る。さらには走行時や制動時のグリップ(路面掴み)が悪くなる。低すぎるとタイヤの傷みが早まる。路面と接する部分にも良くないだけでなく、ショルダー(タイヤ側面)も痛みが早まる。当然、走行安定も悪い。時に、一般ユーザーから「車で一番大事な部品は何ですか?」と問われることがある。即座に、それはタイヤです、と答える。
 以前、奥様が使っているという車に乗ってやって来た男性の友人がいた。私も、他人の車はタイヤから見る習慣がある。「まずいな!」と思わず呟いた。言及しようか否か暫し迷ったが、黙っていた。「人間関係の安全」を優先してしまった。
 後日、共通の友人から、その車が雨の日に大きな事故を起こしたと聞いた。心が痛んだ。 (終)

2025年6月19日 発行

 

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