
前回、プリザーブ苺ジャムを作って客人たちに振る舞ったことを書いた。幸い、好評であったことも触れた。実は、その翌日建築家の友人が訪ねてきたので、まだ残っていたジャムをバニラアイスに添えて出した。彼からも旨いとの感想をもらった。お陰で、料理への自信ができた。
実は、作る様子をTEC予備校インスタにもエッセイ「車窓余禄」に文章化して掲載した。ここまでやると、この苺ジャム作りを忘れないうちに自分の主要レシピの一つとして固めたいとの思いに駆られてきた。そう思うと居ても立ってもいられなくなり、この前の週末、新鮮な苺を買いに走った。
帰宅してキッチンの調理台に真っ赤な苺を二パック並べてみた。見れば見るほど、やる気が湧いてきた。スマホで前回参照したレシピを検索して、もう一度全体を読み直した。このレシピを提供している女性料理研究家は他の一般的なレシピとは異なる手順を薦めていた。迷わず、「守・破・離」の「守」を守ることにした。特に、レシピを追う毎の写真が見やすく鮮明で美しいのが見るたびに嬉しくなる。前回よりも更に美味しくしたいとの希望が湧いてきた。
では始めよう。前回同様、材料は苺2パック500グラム、グラニュー糖300グラム、それにレモンのしぼり汁大さじ一杯であった。洗って水分を拭き取った苺を大きめのボウルにドサッと入れた。そこへ計量したグラニュー糖をかけて、軟らかいヘラで丁寧に混ぜた。混ぜた苺の赤と砂糖の白の対比が美しい。サランラップをボウルにしっかりとかけて、冷蔵庫に仕舞った。本日はここまでである。一晩、砂糖の浸透圧で苺からジュースが出るのを待つのだ。明日が楽しみだ。
そして、日が明けた。件のボウルを取り出してみると、滲み出たジュースが意外に少ない。レシピの写真ではもっと多く見える。実は、前回も同じことを思った。このレシピの研究家はジュースを分けて先に煮るとしている。迷ったが、もう一日置いてジュースが増えるのを待つことにした。待つ間も、時折冷蔵庫を開けてジュース量を確認した。段々、増えている。よしよし、と思った。
一晩ではなく、一日と一晩置いて苺ボウルを取り出した。そして、ジュースから煮始めた。前回より随分多いのがありありと分かる。アクも取った。110度まで煮るのだ。件の温度になると泡粒が大きくなる。指示通りここで、果肉を投入した。そこで、ハタッと気がついた。苺と砂糖を混ぜる時、レモン汁を入れるのを忘れていた。仕上がりの色合いが鮮やかになるからとの注意を忘れたのだ。少し落ち込んだ。一般的には仕上がり直前に入れると聞くので、迷ったがここでレモン汁を足した。
ジュースと果肉を合体してからの煮込みの様子が前回と違うことに気がついた。中々、とろみが付かないのである。なるほど、ジュース量が多いので煮込みに時間がかかるのだと理解した。そのまま、煮込みを続けた。すると、気になる現象が起きた。果肉苺の鮮やかな赤みが消えてきた。これはまずいと直感した。でも、じっと耐えてアクを取り続けた。
余談になるが、今回の苺ジャム作りはLINEで友達たちに実況中継していた。料理の雲行きが怪しくなると実況中継が負担になってきた。でも、大分時間を要したが、やっととろみが出てきた。ここで、火を止めた。
冷やしてから出来たジャムを食べてみた。前回より明らかに悪い。苺の風味が無く、砂糖の甘味ばかりが際立っている。加えて、鮮やかな赤色が消えて黒い果肉になった。潔く、失敗を認めた。
失敗の原因を振り返ってみた。最初に苺とグラニュー糖を混ぜる時、レモン汁を忘れたのが効いているかも。浸け置きは結果的に長すぎた。果肉から旨味が滲みだしてしまって抜け殻になってしまった。ジュースが多いので加熱時間が延びてしまったことで風味や色彩を失ってしまったのだ。 (終)
2025年6月5日 発行