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26/01/29

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第64回】「ついに、ラリー車に同乗した…」

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車窓余禄タイトル

 トヨタと強い関係の下、ラリーカーのレースに打ち込んでいる友人がいる。ただし、これが主業ではない。週五日は金融機関で真面目に働いている。勤め先も、以前は彼のラリーカー活動に渋い顔をしていた。でも、時代が変わった。ラリーカーを立派な副業と認め、優秀な若者をリクルートする広告塔として活用している。紙メディアやSNSでレースカーの傍らに颯爽と立つレーシングスーツの彼の姿を見かける。言うまでもなく、車体には勤める金融機関のステッカーがでかでかと貼ってある。友として嬉しい限りだ。
 カーレースは大別すると二種ある。ひとつは、閉鎖コースで速さを競うサーキットレースである。F1グランプリやルマン24時間耐久レースはこちらのカテゴリーである。もう一つは普段は公道として使っている道を閉鎖して使うラリーレースである。参考までに、公道でのレースは無いのかと聞かれると、ゆったりと旧い名車を走らせるクラシックカーラリーである。イタリアのミッレ・ミリアを筆頭に世界の先進国を中心に催されている。真似たものが日本でも開催されている。でも、参加者は総じて富裕層が中心である。
 先ほど紹介した副業のラリーレーサーは暫く東京勤務であったが、最近徳島勤務になった。このこともあり、私たち車好きが安全な林道コースに赴いた。まず、自分たちの車をコースで試してみた。コースの特徴は大体つかめた。次には、プロドライバーのナビ席に乗り込んだ。彼の参戦しているクラスは基本は市販車であるトヨタ車の改造版である。改造の中身であるが走りに不要な後席は外している。防音、遮音もレースには要らないので剝がしてある。エンジンを始めとするデータ表示の計器が追加されている。太い鋼鉄の菅で組まれた補強ロールケージが内壁を固めている。車体の剛性強化は、安定した走りと事故の際の圧壊を防ぐための必須要素である。高速走行と運転操作に必死で見る余裕がないので、カーナビは搭載していない。
 さて、肝心の乗車体験である。シートベルトは左右上下から身体を固定する四点式である。事故火災の際、迅速に脱出できるようベルトのリリースはセンターダイアルで四点同時にできる。車種は、数日前にトヨタ・ラリーチャレンジからテストのため預かったハイブリッドのアクアである。なので、出発の前には充電を兼ねて暖機運転を行う。充電が済むと猛発進、エンジンとモーターの二重加速なので半端なく速い。実際のレースでは貯めた電気を過不足なく使い切るのが勝利のコツだと聞いた。操作は予想外にゆっくりと確実に行っている。コーナーでのハンドル切り増しが多いので、なぜかと尋ねた。パワーがあり過ぎて進行に曲がりが追い付かないので都度切り増しが必要だとの答えであった。
 ここで、ラリーのコース内容を説明したい。コースはSS(スペシャルステージ)とリエゾン(SS間の繋ぎコース)に分かれる。勝敗は各SSでのタイム合計の速さで競われる。しかし、リエゾンにも気を遣う。早くても遅すぎても原点となる。早すぎるのは公道に危険を及ぼすのと、途中でコーヒーなど飲んでノンビリされてもレース運営に支障を来すからであろう。SSの路面は、ターマック(舗装路)、グラベル(土と石ころ路)、スノー(積雪路)、アイス(氷結路)に分類される。どの道も応じた運転技量が求められる。
 次に、乗員である。ドライバーとナビ(最近は、コ・ドライバーと呼ぶ)の二名が乗り込む。二名は事前(前日)に時速30kmの下見走行が許される。一回だけである。これをレッキという。レッキの間にコドラ(コ・ドライバー)は路の長さ、曲がり、起伏、路面状況を素早く書き留める。これをペースノートという。このノートの善し悪しがレース当日の出来に大きく影響する。ノートを頼りに二人の信頼と絶妙なコンビ関係が勝敗を決める。ところで、天気は「生もの」である。入念に作ったペースノートにも関わらず、当日は濃霧だったこともある。記憶と勘だけが頼りである。他の機会では、はたまた忙しい準備の間にコドラが貴重なペースノートを紛失したこともある。聞いているだけでも、冷や汗が出てくる。ラリーは命懸けだ。
 必死に林道をラリー同乗走行して降車すると、ある友人のエピソードが突然思い出された。愛する彼女を載せて積雪と氷雪の米国・カナダの冬道を走っていた。原因は省くが、突然車が滑り始め急ブレーキを踏むと激しいスピンに陥った。車内に彼女の悲鳴が響く…。閃くように、あるラリーストの言葉を思い出した。「スピンしたら、ハンドルから手を放せ」。放すと、嘘のように車輛はスッと立ち直りスピンを止めた。
 無事を抱き合って喜ぶ中、彼はラリーストの次のセリフも思い出した――「通常、ドライバーより車の方が運転上手いですから」 (終)

2025年11月20日 発行

 

 

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