
私の知人・友人・親戚には「キュウリもみ」が大好きな者が大勢いる。夏の暑いころには一口で涼味を呼ぶキュウリもみは大人気である。かつては夏だけの夏野菜だったきゅうりも、ハウス栽培を代表とする農業技術の発展でオールシーズン野菜となった。冬場でも温かい料理の口涼めとしてキュウリもみがメニューに加わる。また、濃厚な味つけ料理の箸休めに冷たく酢味のキュウリもみは、次の料理への切り替えに最適である。演劇同様、時には主菜を盛り立てる名わき役として活躍する食事シーンもよく見かける。
ところで、キュウリもみ好きのひとりに阪神の電機メーカーに勤める従兄弟がいる。昔の日本家庭の例にもれず子沢山の家で私の母と彼の母は長女と末っ子の関係ゆえ、従兄弟の彼は私よりだいぶ若く、仕事もするが美味しいものを好んで食べる男である。彼が実家に帰る時には、私がキュウリもみを作りタッパーウェアに詰めて土産として持参している。「キュウリもみ」に合うたんぱく質食材としては、やわらかく赤みが映えるカニカマが良く似合う。他の取り合わせとしては、甘出汁で煮込んだ赤い人参もよく合う。彼はキュウリもみと甘煮の人参のコンビで食するのが大のお気に入りである。これを書いているときにもホクホク顔で好物を食する彼の顔が浮かんでくる。
近年、ある港町の家庭の食卓で「キュウリもみ」と「ひじき煮」の取り合わせに遭遇した。日本で売られているひじきは韓国や中国からの養殖輸入品が多いが、この港町で出されたヒジキ煮は紛れもない日本産、徳島産天然品であった。店で買った(おそらくは)輸入品よりも幾分太目であり、気のせいか味わいも深みがあった。家人はヒジキ煮を炊き立てのご飯の上にたっぷりと載せて、「涼味のキュウリもみ」と交互に口に運んでいた。その美味そうに食べる様は強く印象と記憶に残った。迷わず、自宅に帰ったら作ってみようと決めた。実は、この年末年始に孫一家が帰った折に食べてもらおうと心待ちにしている。伝統的にヒジキ煮は健康食、長寿食である。健康と長寿を願いながら食べたい。
さて、主役の「キュウリもみ」は本稿執筆を前提に、この週末に虚心坦懐に作ってみた。まず、買いたてのキュウリを冷たい真水で洗った。それから、まな板の上に五本のキュウリを並べ、蔕(へた)を丁寧に切り落とした。そして、スライサーを右手に構え、一本ずつ丁寧に薄切り(スライス)して、笊籠(ざるかご)に堆積していった。五本分のスライスが終わると結構な高さの山になった。山のてっぺんから赤穂の塩を振りかけた。大分慣れているので、目分量である。半透明のキッチン手袋を履くと、スライスきゅうりを塩もみした。塩の浸透圧でキュウリの水分が抜けるので輪切りの直径が急速に小さくなっていく。笊籠を受けている深ボールの底には緑色の水分が溜まる。旨味が凝縮した水分はもったいないが流して捨てる。塩もみしたキュウリを真水で洗う。ここでも、旨味がもったいない気分になる。ちなみに、私の母は旨味を残すため真水洗いはしないと言う。人に依りやり方は微妙に異なるようである。
シンプルな工程なので、一気呵成に調理を進めても良いが、私はここで一息つくようにしている。体力・気力の立て直しと全体の点検のためである。息が整うと、酢を調味料と合わせる作業である。慣れているので、すべては目分量である。別の深ボールにグラニュー糖を入れる。グラニュー糖を選ぶのは出来上がりのスッキリ透明感のためである。次に塩を少々と米酢を加える。最後に発酵の旨味酒である「みりん」を加える。さわやか味を求める調理人は、みりんは省くようである。仕上げは、ボール下部を揺すりながら全体を混ぜて溶かす。砂糖や塩の粒子は残さない。ここで、ついに水切りしておいたもみキュウリを合せ酢にドサッと入れる。そして、ゆっくりと全体を混ぜる。少量を小皿に取り味の仕上がりを確かめる。合格なら、ボールにサランラップをかけて冷蔵庫に入れる。
しかる後に食す時に、摺りゴマを軽く降り掛ける。調理の時にゴマを入れた方が味はよく滲みるが、見た目に透明感がなくなる。
年末年始に客人に出すときは、塩サバの焼き物と「キュウリもみ」を併せて出したいと計画している。塩サバは料理酒を滲み込ませたキッチンペーパーでくるんで冷蔵庫で寝かせておきたい。半年前の試作では上出来だった。年末年始が待ち遠しい。 (終)
2025年12月4日 発行


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