
朝の5時半である。陽はとっくに上り海岸沿いの観光道路を気持ちよく走っていた。雨上がりで多少濡れているが、運転に大きな支障はない。日和佐から牟岐に抜ける県道147号線である。徳島南阿波サンラインという名称の方が有名である。もう何百回も丁寧に走っているので、カーブの曲がりやアップダウンの起伏はほぼ全て頭に入り、かつ身体に沁み込んでいる。でも、慢心せずに新しい気づきや発見を期待して愛車を走らせている。
そんなことを考えながら気分よく、上り気味のカーブ道を駆け上がった。右へステアリングを切りながらカーブを終えると、とっさにブレーキを踏んだ。目の前の道を土砂の崩落と倒木が完全に塞いでいる。降りて観察すると、山側半分は土砂で塞がり、海側半分は木の幹と枝が塞いでいる。土砂は退けられないが、幹と枝は動かせるかも、と一瞬考えたが、雨を含んだ土の強烈な匂いにたじろいだ。崩れてさほど時間が経っていない出来立ての崩落だと直感的に判断した。うかつに現場に居ては危ないと思った。
自分の安全もさることながら、連休の始まりなので県外の観光客も大勢やって来るはずだ。「早く関係当局に知らせねば」、と考えた。ではどこへ?県道なので、(徳島)県の道路事務所かと考えスマホで検索をやりかけた。その時、いや110番(警察)の方が情報拡散や現場対応が速いかな、とも閃いた。多少説明もいるので後戻りして、日和佐交番へ通報も考えたが、最近の交番は、早朝は無人が多い。なので、国道55号を南下して牟岐警察署への直接通報を決めた。牟岐警察署に着くと玄関が施錠されているのに少し驚いた。最近は物騒な事件が多いので、警察も人並みに警戒しているのかな、と推察した。ガラス扉越しに内部を見ると警官が一人当直をしている様子であった。近くのインターホンを推して、崩落通報の趣旨を伝えると、玄関が開錠されて中へ導かれた。崩落事故の場所や現場状況、発見時間を知らせた。現場から20分ほどの到着時間を告げると、何気に30分程度に訂正した答えが返ってきた。現場から警察署までの時間が短すぎたかな、と察したが警官相手に野暮な質問は控えることにした。「上から、通報者の情報を5つ聞けといわれている」と言う。氏名、住所、生年月日、勤務先、役職の5つを正直に教えた。
警察官への説明を終えると、質問いいですかと尋ねた。こんな崩落事故の場合、どこに知らせるべきでしょうか、と聞くと県の道路事務所だと言う。夜間も受付の人員が配置されているはずだ、と付け加えた。警察への通報は本来ではないのかと確認すると、警察でも構わないと言う。すべての110番通報は徳島の本部で受けて、やり取りの内容は県内の署や交番、パトカーで同時傍受されるようになっていると説明された。聞けば聞くほど、県の道路事務所よりも警察の方が通報先としては望ましいと思った。
ものの20分ほどで通報が終わると、近隣にあるコンビニへコーヒーを飲みに行った。顔なじみの店長に147号線の崩落事故について話した。「そちらへ行きそうなお客さんが来たら事故のこと教えますから」と答えた。二次被害になるといけないので、県外客などは特に注意してくださいとお願いした。
コーヒーが終わったあと、少し躊躇したが現場へ戻ることにした。理由は二つ。日和佐側からは現場を見たが、今度は牟岐側から観察したかった。ここで写真も撮った。もう一つの理由は通報後の当局の対応ぶりを見たかったのである。予想通り、現場到着の手前で警察のパトカーに出会った。土砂崩れが起きたので、引き返せと言う。「はい、広い所でUターンして帰ります」と答えた。通報から30分後のことである。さらに20分後、日和佐側のサンライン入り口にはパトカーが停まって道路利用者に事情を説明していた。
改めて、こんな事故発見時は警察連絡がよいと確信した。(終)
2026年5月7日 発行



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