
車中でラジオを聴くのが好きだ。最近のラジオ番組共通の特徴はパーソナリティ(進行役アナウンサー)とリスナー(視聴者)がSNSで繋がっていることである。放送中にほぼリアルタイムにメッセージが飛び込んでくる。先日のテーマは「日常に潜む危機」。
ひとり暮らしのおばあちゃんが投資詐欺にやられるところだったと、若い娘さんからの投稿であった。金融機関のATM前で携帯片手に不慣れな操作をしているのを行員が見つけ犯行を食い止めた、という話である。しかし、おばちゃんは頑なに振込をしたがり、行員が説得に汗だくだったとの現場状況が孫娘からのメッセージに添えられていた。 間もなく車は目的の香川県の会社に到着した。車内FMの話をすると、先方の社長が、「この間もこの通りを行ったすぐそこの銀行でも似たような事件があったよ。」と答えた。「でも、行員の機転で食い止めたけど、金額を聞いて驚いたよ…」と大きな金額を口にした。
打ち合わせを終わり徳島に帰宅すると、夕食後に開けた地元新聞に類似の事件が報道されていた。記事はお手柄の男女行員が徳島中央署で高齢女性の投資詐欺事件防止で表彰されたとのニュースであった。さらに驚いたのは、自分もよく利用している銀行支店であり、二人ともよく知っている人たちであった。蛇足ながら、男性は私の親しい友人の親友であり、女性は支店内でも物凄く感じのよい顧客人気N01の方であった。私自身もじんわりと嬉しさが込み上げた。
さほど日もたたないうちに、事件を未然に塞いだお手柄の営業店に用事で出向いた。テラー(窓口)の女性には祝福の言葉をかけて、奥のカウンターで同じお手柄の男性行員と向き合った。その日は6月の中旬であったが、事件は3月の末頃であったと聞いた。 超有名なM経済評論家に成りすました詐欺犯は女性に高額の投資を持ち掛けていた。普通の若者がもらう手取り10年分以上である。女性に事情を聴いたり、危ない話かもしれないと説明したりするのにクタクタになったという。女性は相手が超有名経済評論家先生だと150%信じ込んでいた。勧誘のネット上の写真を見せられただけなのに、ここまで信じるのか。行員が詐欺かもしれないからと説得している最中にも「先生、銀行に振り込みを制止されて困っているんです…」と女性は詐欺犯にメールしていた。私には出来ない仕事だと、深いため息をついた。
昔のことを思い出した。若いころ、知り合いの女性が質の悪い男に騙されていた。止めとけと女性を説得すると、男にすべて筒抜けであった。そして、私はマジで身の危険を覚えた。信じることは危険なことでもある。 (終)
2024年5月20日 発行