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26/06/04

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第78回】「家庭の危機はいつどこで起きるか分からない…」

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 校長には県外の車好き友達で、野球が滅法好きな男がいる。だから、パリーグのだれだれはポルシェを新旧2台もっているとか、セリーグのだれだれは最近赤のランボールギーニを買ったとか、そちらの方面にもやけに詳しい。由来は、子供の頃少年野球をやっていて捕手を務めていた。そういう縁もあって、読売ジャイアンツの阿部慎之助元監督にはことのほか関心を寄せている。2000年にドラフト1位(逆指名=選手が球団を指名)で巨人に入団して以来ずっと「慎之助推し」ある。慎之助は巨人入団以来、捕手としてまた強打者として、そして近年は監督として頑張ってきた。
 ところで、慎之助推しの友人が発した人柄を示すコメントがなぜか私の脳裏に留まっている。車ツーリングの休憩のときである。「あいつは、野球は上手いけど、人付き合いがちょっと不器用なんよなぁ」とこぼしたことがあった。友人は、とても残念そうに、そして心配そうにつぶやいた。少し沈黙の後、「ぼくも不器用なんよ…。類友かなぁ…」と笑った。ツーリングが終わり、自宅に帰るとパソコンを立ち上げ「慎之助」コーナーを検索した。うーん、野球はすごいわ。でも、写真をみると昭和の男やな、と声が出てしまった。令和の時代とは少しミスマッチかも、と他人事ながら心配してしまった。
 残念ながら、友人や私の見立てはあまりにもショッキングな事件で具体化してしまった。5月25日午後7時ごろ、彼の娘(18歳)から児童相談所へ父親から暴力を受けたとの通報が入った。これを受けて相談所は警察へ知らせた。渋谷警察署から警官が渋谷区にある慎之助の自宅へ急行し、暴行の疑いで現行犯逮捕した。事の発端は姉妹の喧嘩からであった。止めろと注意すると姉が言い返してきたので、かっとなり襟をつかんで投げ飛ばしたのである。若いころから野球で鍛えてきた身長180cm、体重97kgの父親投げ飛ばされたのである。手錠まで掛けられたかどうかは不明であるが、父親は署へ連行されていった。母親や二人の姉妹は、家庭内のことですからどうか穏便にと、警官に懇願しなかったのか、と私はとても不思議に思う。逮捕連行は止められたのでは、残念でならない。
 折しも、翌日26日はセパ交流戦の初日であった。東京ドームでソフトバンクとの第一試合が18時から始まる日であった。その日の明け方に釈放されて自宅に戻った慎之助は事の顛末を球団に報告した。弁護士同席で謝罪記者会見が開かれ、その場で監督辞任を表明した。代わりに、監督代行としてチームコーチの橋上秀樹がシーズン終わりまで指揮をとることも発表された。天下の読売ジャイアンツ監督からの急転直下の転落である。地位も名誉も高い収入も将来の道も、すべてが吹っ飛んだ。余りにも無残である。
 筆者の私も紛れもなく昭和生まれ、昭和育ちの男である。昭和の男はやたら上下に拘る。やたら強い弱いに拘る。飼い犬がいると、「うちの犬は今まで喧嘩に負けてことがないんでよ」とか言って自慢する。私が、「このワンちゃんは他所の犬と仲良くすることは知らないのですか?」と尋ねると飼い主は、力んだ顔と体の力が抜けてしまいアタフタとしてしまった。昭和の男は力むのが特徴である。力を抜いたユーモアのセンスなどは持ち合わせていない。おフランスのエスプリなどとは無縁の無縁であろう。昔の記憶であるが、中学生の頃、母と同年代の女性たちから「あの人たちの真似したらあかんよ。絶対に女の子にもてんでよ。それにな、結婚して娘ができても嫌われるでよ」と教えられた。いい教えをもらったと今も感謝している。
 女性の教えと言えば、TEC予備校の黎明期のことである。中学生の女子生徒から大事なことを習った。彼女の家は家族構成が特殊であるという。4人姉妹であり、あとはばーちゃんとお母さんの女6人世帯に男はお父さんただ一人の家である。私は尋ねた。「そんな環境でお父さんはどうやって生き延びているの?」彼女は答えた。あのな先生、お父さんは女性化することで上手く生き延びとるんよ。だから、ちいさなことでも喋って喋ってするんよ。あほらしいことでも、わたしら女と一緒にけらけら笑っとるよ。
 TEC予備校では、私は女子生徒たちから人間や世間を学んだ。先述のこと以外にもたくさん教えてもらった。彼女たちには、とても感謝している。(終)

2026年6月4日 発行

 

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