私は地方都市の予備校の経営者である。企業規模から言うと典型的な地方の中小企業である。そこでも少子高齢化、人口減の問題に加え、人事労務問題、資金繰り問題など対応する課題は多い。特に、トラブル対応は神経を使う。早い解決が望まれるが、起きた事の本質を捉えて対応しないと火に油を注ぐ羽目に陥ってしまう。取引先も絡むと、金銭の授受による力関係で相手に責任を擦り付けがちになる。しかし、筋を通し正義も考慮しないと信頼関係にヒビが入ってしまう。生徒も関係した場合は責任の所在だけでなく、教育的観点でも処理する必要がある。それなりに神経と頭、そして心も使っている。
コロナ関係の重要政策や事案の対応を説明する中央政府や県の要人を見ていると、地方の中小企業を担う当方の方がよっぽど本腰入れてやっているように見える。事案への対応より自己保身に気を取られて、対応すべき事案への本気度が疑わしく見えてくる。私も事案が発生して対応する時は、自分の損得やプライドは捨てている。事案をいかに迅速に公平に解決しようとしているかどうかはスタッフも直に見ている。このリーダーに従ってよいのか否か見極めている。この事案の対応で見透かされると次に事案発生時はもっと大変なことになる。なぜなら今回の対応ぶりでリーダーとしての信頼に減点を食らっているからである。
ところで、車窓余禄を毎月書いている私は言わずと知れた車好きである。ツーリングで、海陽町の牟岐へはよく行く。国道55号の右手奥にはJR牟岐駅があり左手海側には旧海部病院の建物が見える。(津波災害のため新海部病院は山手の高台に新築されている。)コロナ軽症者の療養所として8.5億円かけて整備したのは外観からでもよく分かる。打ち捨てられた旧病棟の風情ではない。内部には入っていないが外観の佇まいから内部にも十分手が入っているのが窺える構えである。
先月4月23日の地元新聞の報道には正直驚いた。県がコロナ療養者の数を120名以上も水増しして発表した問題である。担当の保健福祉部長は「療養調整中の人数も療養中に入れることになっている」などと苦しい説明をしていた。その後の知事の説明も全く同じ説明を繰り返していた。「待機中が多数だと県民の不安を煽ることになる」などと白々しく述べていた。療養所入所者数172名と発表しておいて、実際は46名だった事実に驚いた。「都合で鯖を読む」にしても度が過ぎる。
このような県の虚偽発表も地元新聞の調査報道で覆されたのである。県民の命を預かる保健福祉部長がなぜこのような杜撰な発表をしたのか容易に想像できる。上の知事が県の療養入所の方針をタイムリーに決めていなかったからである。決断や方針がはっきりしない上司の下で働く部下は可哀そうである。決まっていないことや実行できていないことを新聞や県民から問われるとその場しのぎの嘘をついてしまったのであろう。部下にこのような窮地に陥らせないためには上の者はタイムリーな決断や指示が欠かせない。
コロナ禍は有事である。執拗な感染症との戦争である。起きた事は仕方がないが、その後の戦いはリーダーの質により内容も気分も大きく変わる。(終)
2021年5月20日 発行 TEC TIMES 6月号より