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23/01/20

校長古田茂樹の「車窓余禄」【第21回】「車には犬の同乗が似合う」

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 数年前のことであるが岡山県にある春の蒜山高原へ40台ほどのツーリングを催した。道中の桜が眩しく美しい。風よし、風景よし、牛いっぱいの牧場よし、観光インフラよしの快適高原である。香川からの参加者は旧いフェラーリ328で来ていた。右側の助手席には実の子供のようにかわいがっている愛犬を乗せていた。PA(パーキングエリア)に入ると大人気であった。赤いフェラーリに真っ白な北海道犬はズバリ「絵になる」光景となる。子供たちが駆け寄ってくる。
 北海道犬とは? 事細かに説明するより、某携帯会社のCMに出てくる「白戸家のお父さん」である。お父さんの名は、白戸次郎という。北海道犬はどの犬も美形で、それぞれがとてもよく似ている。この香川の犬は「ホタテ」という実名である。この日別車で参加しているお母さん(人間)が北海道の有名海産物にちなんで命名したのである。
 シーンを元のフェラーリ328と白戸次郎に戻す。子供が駆け寄ってきて、その後をお父さん、お母さんが追いかけてくる。「すごい、かわいい、白いふわふわの毛並みじゃ……触りたい……キャー首輪が素敵」と歓声が絶えない。あらためて、きれいなもの、かわいいものは強い。説明無用、能書き無用である。一目で老若男女を魅了してしまう。「今度、学校の作文に書こう…」という声も聞こえる。ツーリングがこんなに人々を楽しませているのが嬉しくなった。
 楽しいものを見た子供たちの想像力もすごい。「これって新しいCMの撮影かも…撮影隊の車近くにいるかも…探そう」とか「白戸次郎が来てるんなら…アヤ(白戸家の長女=CMでは上戸彩)もいるぞ…高そうな車に乗っているぞ…」とか言いながら私たちの車をのぞき込んでくる。ツーリング仲間はニコニコ、ニタニタしながらもその光景を楽しんでいた。かわいい北海道犬から発動した子供たちの創造的な想像力に水をかけるような野暮な者はひとりもいない。でも、この光景をダラダラ続けてもよくないので、間もなく会長が出発の指示を出した。惜しまれながら北海道犬は赤いフェラーリに乗って去っていった。
 場面を大きく転じる。場所は四国中央市新宮にある高速高知道のPAでもある「道の駅霧の森」である。この時は蒜山とは異なり5台ほどの小さなツーリングであった。新宮はお茶の名産地なのでこの道の駅はお茶やスイーツを売りにしている。「霧の森大福」は全国に名を馳せたスイーツである。
 この人気の高い道の駅は大勢の人が押し寄せる。四国中央市などが出資している第3セクターが運営主体であるが、なかなか経営上手とお見受けする。私たちのツーリングは晴れた初夏の日であった。大きな木の陰のベンチに座って休憩していると、前方から見慣れない犬たちが優雅に歩いてきた。2頭だ。すらっとした頭部、すらっとした胴体、すらっとした四肢、普通の犬ではない。その時はまだその犬種さえも知らなかった。
 犬の堂々とした静かな優雅さに多少圧倒されながらも、勇気を出して犬とその家族に声をかけた。「すみません、綺麗な犬ですね。高貴な佇まいに感動しました。」彼らは、微笑みながら歩調を緩めて、私たちの前に立ち止まってくれた。家族は、両親と10代とおぼしき姉と弟であった。立ち上がって、尋ねた、「初めて見ました。何という犬種ですか、どこの原産ですか?」お父さんが丁寧に、ボルゾイという犬種でロシアやベラルーシが原産地です、と答えてくれた。屋内で静かに過ごすこともできますが、一旦野外に放すと野生に返り、猛スピードで狩りもできる犬です、と付け加えた。私たちの礼に笑みで答えて犬と家族は優雅に立ち去った。う~ん、絵になる。
 「ワンちゃん、こんにちは」なんて気安く声をかけられる犬じゃないな。ロシアやベラルーシが原産か。ロマノフ王朝の宮廷で世話係に傅(かしず)かれている姿を想像してしまう。呼びかけるなら、「お犬様」が適切かな…。 (終)

2023年1月20日 発行  TEC TIMES 2023年2月号より

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